ホーム > 親父が執筆したもの > [第13話]医者の人相

[第13話]医者の人相

C先生は、学生時代からすでに額から頭部移行部方面の毛が薄くなり始め、先天的な風貌も援護射撃した結果、卒業時にはもうすっかり一人前の風格を備える医師になっていた。

卒業直後に、母親と二人で出かけた見合いの席で、相手方からの第一声が
「おとーさまですか?」
だったという、一生尾を引きそうなショッキングな経験も持ち合わせていた。

一方、同級生のD先生は童顔で、声も小さくあまり目立たない存在であった。二人の卒業生は大学の泌尿器科に入局すべく、教授の所に挨拶に言ったところ、
「君はよく見る顔だ、そうかC君か、まあしっかりやりたまえ、確か君は講義の時は何時も一番前の席にいたね、うん、真面目によく出ていたね、うん」
「あ、D君ね、まあ、しっかりやりたまえ」
と二種類の反応があったらしい。

しかし客観的事実は、C先生の講義の出席率は、ほぼ皆出席のD先生に遠く及ばなかった。ただC先生は、出席する時には意識的に教室の前の方の席に陣取り、その印象的な顔で教授を睨みつけるようにしていたのは学生時代変わらぬ作戦であった。

C先生の外観に端を発するエピソードは、その後もどんどん作られた。入局して程なく、科の入院患者からはこの人が教授だと慕われ、絶大な信頼を労せずして得ていった。大学病院からは人手の足りない地方の病院に、若手の医局医師が不定期に応援に出ることがあるが、そんな時病室を一回りしてきたら、今日はめったにない院長先生の回診があった、と患者は大喜びした。

大学の医局では卒業したての医者の卵を教育するにあたり、新米とベテランの二人で組を作り、2人で何人かの入院患者を同時に診療するというペア制度をとっていた。C先生の上になったE先生は運悪く大変な童顔で、患者は何事につけC先生の方を信頼しているような言動をとるので、新しく患者が入院してくると
「私の方が上です、私が指導医です、よろしく」
と言って回らなければならなかった。手術をなかなか承諾しない患者でも、C先生がおもむろに説得すると速やかに承諾するので、他の先生は大いに悔しがった。

同窓仲間のF先生はかなり年配であるが、童顔の中でも筆頭にランクされる。地方の大病院の医長の座にあるが、そこで手術を勧められた患者が、念のためと大学病院を訪れることがある。そこで、F先生の一回りも後輩にあたる若い医者から同じ事を言われて、初めて納得して帰っていく現象は、大学病院という権威の大きさを考えさせられる。

かく言う私は、もらうものはもらい、子供の数が妻の数の3倍になった35才頃まで
「先生に嫁さん世話しようと思うんですけど、、、」
という話が続いた。悪い気はしない、などと呑気な事はいっておれない。これはやはり医者としては大変損なのである。

コメント:0

コメントフォーム

コメントを表示する前に管理人の承認が必要になることがあります。

ホーム > 親父が執筆したもの > [第13話]医者の人相

検索
Feeds

Page Top