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[第2話]「急性膀胱炎」のためになるおハナシ

急性膀胱炎とは頻尿、排尿痛、尿混濁を主症状とする膀胱の炎症性病変をいう。バイ菌が膀胱の中に入って起こる病気である。これは患者の大部分が女性で、その原因は、尿が膀胱から世の中に出るまでの道のりが、約4センチ程しかないグループと、出っ張っている分だけ長いグループとに、人類が二分されるという宿命の差と考えられている。

外界は見方を変えればバイ菌の巣とも言える。水道水で綺麗に洗ったばかりの手にも、歯磨きをした後の口の中にも、新品のパンツにも、洗濯済みのシーツにも、数が少ないだけでバイ菌は必ず存在する。

結婚すれば天下御免で始まることになっている“秘め事”は、女性では、ご近所の尿道口付近も大騒ぎさせる結果となり、付近にいるバイ菌は容易に膀胱方面に移動してくる。事実、この“秘め事”の年代別頻度と膀胱炎の発生頻度は、統計的によく相関する事が知 られており、結婚直後に認められる典型的なものには、蜜月膀胱炎(新婚性膀胱炎)という特別製の病名が用意されている。

ひと昔前までは嫁に行った娘に前記の症状が現れると、女性側の親は、もっぱら、相手の亭主はもともと何か悪い病気持ちで、うちの大事な娘は新婚早々その病気をうつされた、などと話が始まり、挙げ句の果ては離婚騒ぎにまで発展した例もあった。しかし日本も最近は結婚までは純潔を守る、という道徳も有名無実となり、独身の女性もどんどん“蜜月膀胱炎”にかかる。

一般に、性交に続発する膀胱炎は、世のどの既婚女性にも可能性はある。しかし、定期的に始まると、女性というものは、だんだんそのあたりが図太くなって、ちょっとやそっと荒立てたってびくともしなくなり、蜜月膀胱炎を繰り返し起こす事態にはならない。

H時、H後に膀胱方面に侵入せんとしている、あたりのバイ菌は直ぐには膀胱に到達しない。従って、ことの後に排尿をする習慣をつけると、尿道の出口からそろそろと膀胱方面にはい上がろうとしているバイ菌を、反対に外に押し戻す結果となり、膀胱炎の発生率は極端に減る。これを性交後排尿といい、正式に医学書に記載があるが、母親も、友達も、学校の先生も、誰もそんなテクニックを教えてはくれない。

ただ、“これ済んだら、オシッコに、行こ、行こ”と思いながら、ことに及ぶのは、あまりムードが出ないかも知れない。また、余韻を楽しむとか、眠いとかの別ジャンルの世界からは 非難を浴びそうな野暮な話かも知れない。

日本にはかなり昔から「ロウガイ」などと並んで「ショウカチ」という漢方病名があり、現在でも膀胱炎と同じ意味に使われることがある。しかし、これは正式には、女性に認められる急性膀胱炎の中でそのバイ菌がリン菌によるもの、つまりリン病だけをさすものである。

最近、独身の娘さんが膀胱炎様の症状を訴えて科に来る既婚者に対する割合は想像以上である。少しばかり本人から話を聞くが、その中で彼氏とHしたことと関連づけて述べる患者はほとんどいない。

それで、必ずその方面の質問をすることにしている。別にその詳細に興味がある訳ではない。こちらは、本人が妊娠しているか、否かが知りたいだけである。妊娠ほやほやであることが確認されれば、あまり薬は処方したくない。

ほとんどが、さかのぼること2~3日前に事件がある。
「えー、Hと何か関係あるんですかー」
「えー、ちゃんとゴム使ってたのにぃー」
「シャワーちゃんとしてからしたのにぃー」
「彼が悪いのかなー」
「ヤダー、先生、これって性病?」
「何回もしたからかなあ」
など、若い人はあっけらかんとした受け答えが多い。

これが、性交渉はもう卒業している年齢だと、世の中で思われてしかるべき中年の女性だと(よくよく考えてみるとそんな年齢はないのだが、何故か日本社会には“いい年こいて、そんなこと”という、厳しい暗黙の常識が存在する)、少々反応が違ってくる。肝心な質問には答えず
「冷房で冷えたのが悪かったんでしょうか」
「新しく買ったスカートの風通しが、すーすーすしたんで」
「旅先で入った公衆便所が汚れていたんで、きっとバイ菌はそこから入ったんですね」
などと、素直でない返答になる。

もともと他の病気を持っている女性ならともかく、そうでない場合には、セックスと関係のない膀胱炎はない様に思える。ただ寝たきりや、オムツを常用している老人女性といった特殊例では、この考え方は当てはまらない。一方、男性が普通の膀胱炎になること自体異常なことで、そうした場合、背景にある隠れた病気を探すことが大切である。

単純な膀胱炎は、例えば風邪と同じで、放っておいても日が経てば良くなる。だから妊娠早々には、薬は服用しないのにこしたことはない。ただバイ菌がありふれた種類のものでく、特殊な種類である場合には、ちゃんと治療しないといくつかの後遺症を残して、不完全に治癒する。その判断は素人がするものではない。

動物を使って実験した結果によれば、正常な膀胱の中にバイ菌を注入しても膀胱炎は発症しない。しかし、予め膀胱や膀胱粘膜と連続性を有する尿道粘膜に小さな傷でもつけておくと、同じことで膀胱は炎症の場に変化する。これは少しくらい汚い目にあっても健康 な皮膚ならば化膿することはないが、切り傷でもあったりすると、いわゆる“うんでくる”のと同じ理屈である。

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